2x2...人と文鳥の小さな群れ

シルバ@blanccasseのための備忘録

嵐雲に混ざるオレンジ

日曜日、海松の隣りに朱華を埋葬してきた。冬枯れで、今は見る影もなく荒れ果てている庭。けれど、春になればまた、数々の花が開く庭。虫たちが好き勝手に生きる庭に。

壊れそうなレティ@12/10〜12/12

あれから。レティはべったりくっついて過ごしている。“出せ!出せ!”とひっきりなしに騒ぐのに、いざ出ても遊ぶでもなく、営巣場所探索するでもなく、ただただ人間の手の中に座り込み、部屋中あちこち眺めながら、何事かぶつぶつと訴え続けるだけ。一羽でいられないだけ。あんなにマイペースな子だったのに、お昼寝もせず夜寝もせず、就寝時間になっても寝付くのを嫌がり、寝坊助だったのが嘘のように、ほんの些細な物音で飛び起きて騒ぎ出す・・・そんな毎日。

以前朱華が入院した時とは違い、探し回ったりはしない。呼び鳴きしているようでもない。私と子犬ちゃん、どちらか一方でも席を外せば、それがトイレでも覗き見える台所でもなんでも、戻るまで鳴き叫ぶが、それ以外は呼び鳴きではないのだ。一羽でいることが全く出来ず、何事か強く訴えていて、でも、愚かな人間共にはちっとも伝わらないだけ。私と子犬ちゃんの間にいたがることしか分からない。

外に出ていても、鴉が一声鳴いても、人間がちょっと物を動かしても、飛び上がって慄く。手の中に座り込んでいても、以前のようにむっくらまったり出来ず、常に緊張感を漂わせ、四六時中ぶつぶつ言いながら辺りを眺め回している。

黙って食餌することも無くなった。訴える合間合間に、訴えつつ食べる。ちょっと人間が動くと食餌を放棄し、“出せ!出せ!”コールが始まる。長時間外にいる上に、ケージに戻しても落ち着かず、動き回ってばかりいるので、食餌量も減っている。

また、寝付きが悪いというレベルではなく、寝ない。一羽で寝たがらない。朱華よりずっと、さっさと寝ようとする子だったのに、ケージに戻された途端、延々ケージ内を三角飛びし、扉をガシャンガシャン打ち付けての“出せ!出せ!”コール。人間を呼び続けて飽くことがない。説得に耳を傾ける気配すら無く、上段止まり木@寝場所定位置に無理矢理上げてしまおうと手を入れると、その上に座り込み、断固動かないと主張。たぶん、“一緒に寝るのがいい!”と言いたいらしいが、人間はケージには入れないし、無論、外で一緒に寝る危険など侵せない。仕方なく、一瞬のタイミングを見計らって全ての電気を消し、強制的に眠りに付かせている。

元々繊細・・・と言えば聞こえは良いが、神経質な面のあるレティ。何事にもあまり動じず、うっかりさんにすら見えていた朱華が居てくれたお陰で、その神経質さは軽減されていたのかもしれない。それが、このショックで全て悪い方へ悪い方へと表れているのか。。。朱華の有り難さは改めて実感するが、このままではどうにかなってしまいそうで、見ていて、怖い。

そんなこんなの健康診断@12/12

土曜はレティの健診日で。

医師には亡くなった翌日、伝えてあった。朱華の診察予約をキャンセルするために電話したところ、看護師の気遣いで直接話す機会を得たのである。その際、自分の責任だとよくよく分かっていながら、不覚にも声を詰まらせた私に、心からの哀悼の念を伝えてくれた医師は、この時も「入院をお勧めしていれば違ったかもしれないと思うと・・・。」そう言いながら共に朱華を偲んでくれた*1

病院で量ってもらったところ、体重は25.5gまで減っていた。元々27〜28gはあるレティ。食欲が落ちているとは思っていたが、ここまでとは。。。

しかも。春からのてんかん様発作の状況を説明し、いざ保定となった瞬間、当の発作を起こした・・・らしい。

見ていた当人のくせに“らしい”などというのは、その瞬間にはまだ、私には感じ取れなかったからである。医師に告げられ始めて“成る程”と思う微妙な変化。でも、そうして話すうちにも、みるみる力が抜けてゆくレティ。

医師曰く、「犬猫中心の動物病院で、保定された文鳥さんが急死するという話をよく聞かれるかもしれませんが、そのうちの何割かはこういった状態で心臓発作を引き起こしたためと思われます。」とのこと。幸い、レティの場合は医師の判断が早かったため、我が家で発作を起こした時のような、ぐったりと気を失うまでにも至らず、呆然自失に留まった。が。。。レティ、確実にてんかん様発作持ち確定である。

本来、医学的に“てんかん”と確定するには、脳波測定器やCT、MRIなどを使った精密検査で、脳腫瘍等の別要因が無く、脳神経の問題であるとの確定診断を下さなければならないらしい。

しかし、現実的には鳥類、まして文鳥のような小鳥の脳を対象とした精密検査機器など存在しない。というか。“あの小さな脳を診断可能な位に細かく寸刻み画像に出来、その上鳥類に耐え得る音しか出さないMRIって・・・どんな?作れるの?”とは、素人の私でも思う。加えて。例え、脳腫瘍が原因で、除去により完治可能と分かったところで、どこの、誰なら、現在の鳥医療水準で治療し得るだろうか。・・・・・・・・・。

そういった訳で、症状からの類推として“てんかん発作”と称される、この病気。規則的に繰り返される瞬き、小刻みな足の痙攣。それが発作の初期症状とのこと。観察眼の腐った私には、最初の兆しは分からなかったけれど、今後はもっとじっくりしっかり観察せねばならない。

レティの場合、他の文鳥さん達より若くして発症したせいか、今のところ、そのまま気を失うだけで、数分後にはパッと飛び起き、それっきり。嘴やアイリングが白く、或は青紫っぽくなったことなどないが、そういう症状が現れるようだと、心臓など内臓部分に別の病を抱えている可能性があり、状態を見極めると同時に、詳しい検査をするかどうか考えねばならないらしいのだ。

・・・難しい選択である。単なる保定でこの騒ぎとなる生き物を相手に、更なる重篤な病がある“かもしれない”からといって、それでも検査をすべきか否か。まだ症状が軽い(?)にも関わらず、今まで何という事も無かったそのう検査でさえ中止したというのに、その時、その可能性がどんなに高いとしても、それでもと思えるかどうか。私はどういう判断を下すのだろう。。。難しい・・・が、やらない選択をしそうな予感がする。。。

現状、てんかん様発作は爪切りの時しか出ておらず、その他の病を疑わせる症状もない。無理矢理にでも良い方向へと楽観的に考えるならば、病院での発作は、朱華のショックや、ケージ内で追いつめられて無理矢理連れて来られたストレスなどが重なったためで、次回は出ないかもしれない。その他の疾患なんて、生涯罹患しないかもしれない。かもしれないかもしれない。良いことも悪いことも、全ては“かもしれない”の内にある。

結局、この日はいつもの顕微鏡糞検査のみで終了。少し未消化糞が出ているとのことで、念のために整腸剤だけ処方して頂くこととなった。種子餌に振りかけて使用するタイプのもので、イメージとしてはビフィズス菌のような善玉菌を増やす薬。味もそれ程変わらないとのことだが、ただでさえ食欲減退が問題となっているレティ。万が一にも食餌を嫌がるような真似は、当然、出来ない。医師にもさせるつもりがないし、私にもするつもりはない。なので、本当の本当に気休め。むしろ、このショックから立ち直ってくれれば、こんな糞も無くなるような・・・期待。

朱華は紫陽花の下に@12/13

帰宅したレティは、さすがに疲れていたらしい。“出せ!”とも言わず、数日ぶりに夜寝した。もっとも、それは小一時間程の静寂であったが。

それでも少し、変化があった。ほんの少しは。

例によって、30分程「一人では寝ない!」とがんばった翌日。朱華の埋葬を決めていた日。あんなに出たがっていたのが、少しだけ、止んだ。ぶつぶつ訴え続けるのは相変わらずでも、出て来て部屋を見回しながらだけでなく、上段止まり木から外を眺めつつ言うようになった。

「もうしゅーちゃんじゃないもん!」そう言ったレティ。「しゅーちゃん、なんでそこにいるの?」部屋中眺め回しながら、そう言っていたレティ。今度は「しゅーちゃん、外に行っちゃった!」と言っていた。感傷に溺れる人間共には、そう、見えた。

ただ、他は相変わらずで。泣き叫ぶ声を背中に聞きつつ、朱華を連れて家を出ることとなった。



・・・朱華の死は、やはり私の責任。子犬ちゃんでも医師でもなく、私が引き受けるべき咎。自虐でも慰めを求めているのでも無い。刻み込む備忘録としての単なる事実の記録。無論、骨折させたのは子犬ちゃんとレティで、諸々の要因がブラック仕事なのも事実。でも、(敢えて表現するなら)たかが骨折で死に至らしめたのは、私の看護眼放棄によるものだ。

朱華が薬水を飲まな過ぎるなら、投薬など中止すべきだったのだ。朱華が開口呼吸していないからといって、最低温度が23度だったことを気にするあまり、サーモスタッドの設定を上げるような真似はすべきではなかったのだ。ぎりぎりまで薬水摂取を控えていた朱華は、たぶん、そのために脱水症状を起こし、食餌が取れなくなり、低血糖でますます動けなくなり、終には死に至ったのだ。状況を見極めることをせず、マニュアルだけで行動した、私の、責任。

花布団にしていた花たちを敷き詰め、途中で買った小さな花束を添え、朱華を埋葬し、香を手向け。揺らぎながら天へと昇る煙を見詰めつつ、黙って涙を溢す子犬ちゃんの後ろで。私の悲嘆は身体の奥底に静まり返ったまま、浮かび上がっては来ない。



そうして帰り道。ここ数日、時々口にしていた言葉を、再度子犬ちゃんに告げた。

「雛ひな、お迎えしよう?」

事態を動かす決意@12/14〜12/16

月曜。レティは少しだけ、子犬ちゃんの手首の上限定で、昼寝出来るようになった。朱華がいる頃から無視し続けて来た雀の声に、僅かに反応するようになった。くっつき虫は相変わらずだし、以前のようには昼寝も夜寝もしておらず、食欲不振の上、ケージ内では騒ぎまくり、中々寝ないのも同じ。それでも、ほんの少しずつのささやかな変化でも、嬉しかった。・・・ただ、嬉しくても不安は消えなかった。

このまま衰弱していったら。神経過敏が続いて、このまま発作が頻発するようになったら。このままレティを失ったら。

今、生きているレティを助けられなかったら、私は。。。

そうして、まだ服喪期間中という気持ちの抜けない子犬ちゃんを無理矢理説得し、問答無用で雛ひなを迎える準備を始めたのである。

子犬ちゃんの自宅作業日と私の年末年始休暇を鑑みると、迎えられるのは今しかなかった。今お迎えすれば、上手くすれば初出社の頃には挿し餌もほぼ終了しているはず。万が一終わっていなくても、どうしても人間共の出社日が重なるようであれば、たった数日のこと、私が会社に連れてゆけば良い*2。ちょっと旅行にでも出掛けようかとか、せめて花鳥園とか友人宅へのお泊まりとか、そんな淡い計画なんて全部ぶっちぎってでも、どうしても“今”だった。

「シルバが変なことやってる!!」と騒ぐレティを宥めつつボレー粉を摺り。スケジュールを睨みつつ煮干しを摺る。カレンダーを数えつつ雛探しを始め、いつもお世話になっている文鳥団地の生活さんやgoogleの神様にお迎え準備について尋ねつつ文鳥屋さんに必要物資を発注した。勢い余って“一体、何羽育てるつもりなんだっ!?”というくらいのスペシャルパウダー*3が出来上がってしまったが、とにもかくにも準備は整えた。

水曜になってもそれ以上の変化がないレティ。複雑な心境を滲ませる子犬ちゃん。頑ななシルバ。

群れのリーダーとして。この局面を動かすと決めたのである。

診療費

項目 内訳 小計
再診料 1,000×1 ¥1,000-
糞便検査料 500×1 ¥500-
投薬料 750×1 ¥750-
合計   ¥2,250-

*1:他の飼い主方がどう思うかは知らない。不特定多数の見る場所で書くべきではないことかも知れない。でも私は、たくさんの患鳥の内の、たった一羽に過ぎない朱華の死を、共に悼み、悔いの言葉を述べてくれた医師が、医師としてやっていくには優しすぎる程に優しく感じられ、とても有り難かったのだ。

*2:会社には、秋頃から毎日子犬連れで出社している同僚がいて、私も日々子犬と遊んで癒して貰っているのだ。なので、連れて行ったとしてもケージから出しもしない文鳥雛程度、非難される謂われはないと思う。ましてもう、辞める決意を固めた会社だし。

*3:ボレー粉、カトルボーン、煮干し、乾燥(焼き?)海老、蕎麦の実を摺って粉末状にし、きな粉を加えたもの。【 文鳥団地の生活 】ー 文鳥問題 ー “31 ヒナのエサ ”に習って仕上げた。